懐かしいピザ
ピザが私にとって懐かしい味だなんて、思いも寄りませんでした。
物心ついた頃から、そりゃあもう年号も変わろうとする位、時を経ました。
ピザが珍しい時代に育った私です。子どもの頃は気軽に宅配ピザを頼まず、クリスマスなどの特別な日に頼むくらいでした。
盛んに放映される宅配ピザのCMは垂涎ものの世界だったのです。
今、40代になって、ある程度色んなものを食べてきて、ピザもローマタイプだのアメリカンタイプだのと違いが分かる程度になりましたが、ピザの特別感はまだ残っています。
特別といいますか、ごちそうという感覚です。
ある日、近所のとある飲み屋さんで、常連さんの中でおいしいと人気の手作りピザを食べた時にその感覚が変わりました。
意外でした。
どこか懐かしい味だと思いました。
私の中でのピザの位置が、どこか取っつきにくかったのに、まるで覆すように懐かしいと感じるのは何故だったのか、不思議な感覚でした。
それから、何かいい事や特別な事があった時に、ここのピザを食べようと思いました。
水割り
地元のカラオケスナックで、いつもの日本酒からウイスキーの水割りにしました。
薄くすれば飲めるので、はじめは
「美味しいなあ~」とほろ酔いで楽しんでいました。
お店がだんだん混んできて、常連さんもオールスター揃い踏みという金曜日です。
曲の順番を待つにつれて時間も遅くなりました。
手持ち無沙汰で水割りに手を伸ばす回数が増えました。
日付が変わる頃には、
お客さん同士で話し込む人と、団体さん、泥酔してからみながら歌う人たち、歌がプロ級に上手い人、明日を気にしつつ帰り支度をする人などいろいろな人間模様があり、それを眺めていました。
そして私が入れた中島みゆきの「時代」がきました。
あれれ?
声が出ない、裏声のまま。
テンポが追いつかない。
なんと酔い過ぎで歌のリズムに間に合わなくなってしまっていました。
せっかくの名曲なのに、ガイド音と輪唱のようにずれ、フラフラで終えることとなりました。
それなのに気持ちは歌う気満々なのが酔ったお調子者、私の悪いところ。
その後に絢香の「三日月」をオール裏声で歌ってしまいました。
下手だと常連の方に笑って言われたものの、おどけてかわしつつ内心へこみました。
お酒が入ると声が出る説は、水割りの場合はまだ調子がつかめないらしいです。
コンチェルト
階段を行ったり来たり
段差はプレイヤーの腕次第
時には急上昇、急降下、16分音符、
アレグロ、スタッカート
時には緩やかなロングトーン
翻弄される音にしてみれば、たまったもんじゃない
おいおい、1オクターブ上かよ
今度は下がるのか
ああ飾り音符か、出来るのかよ
よし、決まった
なんだよスタッカートの連続かー!
キレよく行こうぜ
この全音符は外すな
もちろん愚痴も悲鳴も上げてはいけない
間違えではいけない真剣勝負だ
そんな一音一音が奏でる集合体は、美しいメロディー、そして人々の心に残る曲になる
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フィニッシュ!
パチパチ…パチパチ…お疲れ様
ホール全体に響いた音達は、どこか満足げな顔で観客の拍手を聞き、静かに踵を返してうちに帰って行ったようだ
ぎんなん
飲み屋の常連さんからぎんなんを揚げたのを戴きました。
「買うと高いですよね」と言うと、はにかむように笑っておっしゃいました。
「通りにも落ちているのよ」
「故郷では境内に沢山落ちていたのよ」
‥そう言えば母も拾っていたなー、と思い出しながらお礼を言って、殻を割り一口入れると、ホクホクした甘みと、ねっとりした食感に併せたほんの少しの苦味が口の中に広がりました。
揚げたのは、煎ったのより甘みがあって食べやすいと思いました。
初めは咬み応えがあるぎんなんでも、食べているうちに優しい素朴な、それでいて少し個性的な味がします。
それなのに私はイチョウ並木の下を無関心に通っています。
もっと知識があったら都内に沢山ある黄金色のイチョウの葉を健康に役立てるのになと思ったりします。
次の日、
この年齢ですら初めて嗅ぐような便が出て、なるほどー、となりました。
さんまの塩焼き定食
今週のお題「最近おいしかったもの」を書いてみます。
お昼を食べようと、食堂系チェーン店に久しぶりに向かいました。
のぼりに「さんまの塩焼き定食」と出ていたので迷わず注文。
さんまの塩焼きに関しては子どもの頃から大好きだった記憶があります。
かつてアメ横では魚屋さんが軒を連ねていたので旬の魚が安く買えました。
週末に父が喜々として買ってきたものはさんま20匹500円。
ビニール袋に無造作に入れられたさんまは、それからしばらくの間、わが家の食卓のメインになりました。
子どもの頃から変わらないさんまの塩焼きの食べ方。少しご紹介します。
さて、注文したさんまの塩焼き定食が運ばれてきました。
子どもの頃は食べられなかったワタも、大人になってからは好物になりました。
何故か真っ先にワタへと箸が動きます。
大根おろしにお醤油を少し垂らし、辛味の残っているおろしをワタに乗せて一口。
ワタといえど生臭さはそれほど無く、独特の香りがするのです。
この時、自分自身が生きている実感がしました。
身の部分は、背中の脂がのっている場所からつついて背骨から剥がします。
小骨はさんまの場合は柔らかいので気にせず食べても大丈夫です。
この時はもう無心です。
ご飯と、大根おろしを乗せたワタ、身の部分を交互に口に運ぶだけです。
ワタの仄かな甘みと苦味、大根おろしの爽快感が合わさって味覚をあらゆる角度から刺激します。
身のしまった食感とご飯が口の中で合わさると、食欲をさらに増進させます。
さんまを食べ終わった頃にお味噌汁の存在を思い出し、飲みごろを一口飲んで一息つきました。左上に配置された冷奴をデザートがわりに頂いて完食です。
所要時間は20分程。
幸せのひと時でした。
思い出深いさんまです。
今では高くなり、うちで焼く機会も減りました。
ここで食べられて良かったです。
久しぶりに子どもに帰ってぱくぱく食べました。