天井
心理カウンセリングを学んでいた昨年のこと。
私は意欲をもって知識を得ようとしていた。講義ではノートをとり、先生の言葉を一語一句聞き取ろうとしていた。
新しい知識は興味深かった。先生は美人で溌剌としたカリスマ的な人だった。
実践クラスのある日、家族療法のロールプレイングをしていた時のことだ。
4名1グループのうちの1名の家族をモチーフに、他3名が家族役になってそれぞれの視点を話し合う形式だった。
私は引きこもりの弟役を言われ、円座に背を向けて俯いて座ることになった。
母役、父役、本人とそれぞれの座り位置や役柄を本人の感覚で指示される。それから1分くらい静止するのだ。
下を見て俯いて座っていると、とてつもない疎外感が生まれた。わずかに視界に入る母役の眼差しが救いだった。
それぞれ母役、父役の感じ方もあるのだろう。
…と、まあこういった家族の疑似体験を数分後に共有し合う授業だ。
静止していた1分の間に俯いている私のそばを先生が見回るように通り抜けた。
「お前はずっとそうしてろ」
低い声で確かに聞こえた。
冷たい短刀で腕を削がれたように、
私は一瞬呆然としたが、先生は確かに言った。
その意味は直ぐには理解できなかった。
あれから一年、頑張っても足掻いても何も実らない。
母が亡くなり
父が亡くなっても
姉や夫から離れても
私は休むことをしなかった。
無理にでも活動しようとしていた。
休むのが悪いことのように。
あの先生は気づいていたのかもしれない。
私の様々な矛盾を。
それを冷静な臨床心理士として、先生として読み取り、あの人らしい最適な方法で私に烙印を押したのだ。
案の定、私は最終試験のカウンセリング試験に出ることが出来なかった。
いま、何となく天井を見つめながら当時のことを思い出していた。
ゆっくり息継ぎをしながら、
休むことにする。
これからの為にも。必ず。