失態
久し振りにパウンドケーキを焼いた。
今までで一番成功率が高かったレシピ本を棚から引っ張り出した。
卵は室温に、バターは40℃に、粉はふるっておく、
…と、まあお菓子の本らしく厳しいことが書かれている。
けれど、その通りに作った。
(厳密に言うと粉ふるいが無くてそれだけは守れなかったけれど)
結果は後ほど書きますよ。
卵の泡立ても、ハンドミキサーが無かったので、
自分の腕でもこもこに泡だてた。
(そういえば昔子供の頃も、この家で同じようにカシャカシャと泡立ててケーキを作ったっけ)
ただその時無心だった。
なんだか面白かった。
そのレシピ本には生地の様子まで事細かに書かれていた。
「もったりして泡だて器の跡がくっきりするほど泡だてます」
…ちっ、面倒くせえなあ。
なんて悪態をつきながら私は黙々と泡立てた。
オーブンで焼いている時に結果が現れてきた。
キツネ色のケーキがみるみるうちに山になってきた。
私は様子を見ながらワクワクして、その小うるさいレシピ本に感謝したのだった。
「粗熱が取れたらビニール袋かラップに包んで冷やし、翌日から4日後までが美味しく頂けます」
最後まで私はレシピ本の言う通りにした。
今、そのパウンドケーキは冷蔵庫で眠っている。
これまでの私は、レシピ本はおろか人の言う事もろくに聞かず、
自分だけで生きてきた。
これまで人を頼ってもいい事なんて少しもないからだった。
そう、そうなのだ。
大切なのは「頼る」の捉え方なのだ。
甘えと頼るのとでは違うのだ。
なかなかその違いには気付きにくかったけれど。
違うと言ってくれたのは、本ではなく人だ。
今日、その人にパウンドケーキを渡すのを忘れてしまった。
なんという失態だろう。
リミットはあと3日後。
でもまた会えるさ、遅れた分ラッピングを豪華にしよう。